脊椎(胸椎・腰椎)の圧迫骨折
●はじめに:
高齢社会になり、骨粗鬆症患者の増加とともに、骨粗鬆症に由来した脊椎圧迫骨折の発症が増加しています。
尻もちや転倒など、ありふれた外力によって発症することが多く、また、重度の骨粗鬆症患者では、ものを持ち上げる、腰をかがめる、階段を踏み外すといった軽い日常生活動作だけでも骨折が発症することもあります。
脊椎圧迫骨折は骨折部の痛み以外にも各種の障害を併発し、要介護状態となる代表的疾患です。
★圧迫骨折の患者様の声
@ 脊椎圧迫骨折後の背中、腰の痛み: 83歳 女性 R.S.さん A 脊椎圧迫骨折後の背中、腰の痛み: 82歳 女性 Y.F.さん●原因
中高齢者の発症原因は、ほとんどが骨粗鬆症によるものです。
骨密度が低下した状態に強い外力が加わった場合に椎体がつぶれて生じますが、骨密度がかなり低下した状態では、日常生活動作程度の軽い外力で発生します。
明確な発症時点に気付かず生じている場合もあります。
加齢や閉経、活動量の低下を主な原因とした原発性と、諸々の疾患や薬物(長期のステロイド剤服用)等に起因した続発性に分類されます。
多発性骨髄腫などに続発する骨粗鬆症など、重大な疾患が潜んでいる場合もあります。
●症状:
以下のような症状がみられます。
・慢性的な鈍痛
・起立、歩行、座位の継続などで悪化
・脚に走るような痛み(放散痛)、感覚の異常、筋力の低下 (神経の圧迫が生じると)
・背中が丸くなる(円背:脊椎後弯)
また、脊椎圧迫骨折を放置した場合は、以下のような症状がしだいに生じてきます。
・新たな脊椎圧迫骨折の発生
・歩行障害、バランス能力低下、転倒など
・腹部臓器の圧迫(食欲不振・体重減少・逆流性食道炎)
・肺機能の低下
・睡眠障害、他者への依存度増大、うつ など
※圧迫骨折部の治癒が進まず、偽関節(ぎかんせつ:関節ではない部位が可動性をもってしまった状態)を生じた場合、立位では円背だがベッド上で仰臥位が維持できてしまう場合もあります。
●脊椎圧迫骨折に対する鍼灸治療
鍼灸治療は、圧迫骨折の発症から間もない方や、重症の場合(偽関節が疑われるなど)には、治療効果はあまり期待できません。しかし、多くの圧迫骨折の方において鍼灸治療の効果が期待できます。
もちろん、鍼灸治療では、圧迫骨折で潰れた骨を元通りに回復させることはできません。
(整形外科では、バルーン椎体形成術(BKP)という方法で修復できる場合があります。)
しかし、圧迫骨折による痛みは、鍼灸で緩和することが少なからずみられます。
●なぜ、鍼灸で圧迫骨折の痛みを緩和させることが期待できるのか?
腰痛はともかく、脊椎圧迫骨折のみを対象とした鍼灸のエビデンス(医科学的根拠となる研究論文など)は、まだ国内外ともにわずかです。
しかし、私、矢野の臨床経験において、脊椎圧迫骨折の患者様においては、偽関節形成例を除いては少なからず効果がみられることが多くあります。
多くの方において、寝返りや立ち上がり、自宅内の歩行があまり苦痛を感じることなく可能となったり、キッチンに立ち続けるのが容易になったり、ご家族から姿勢が少し改善したね、と言われるようになったりします。
矢野は、圧迫骨折の痛みは、以下の3つに分けられると考えています。
@ 圧迫骨折を生じた骨そのものの痛み
A 圧迫骨折を生じた骨(椎骨)に隣接した椎骨との関節部の痛み
B 圧迫骨折周囲の、筋肉や腱、靭帯などの軟部組織の痛み
鍼灸は、主に上記のA、Bを緩和させていると考えます。
鍼灸には、痛みによって過度に緊張した筋肉をゆるめたり、鍼を刺した周辺の筋肉の血流を改善させて筋疲労を回復させる作用があります。
前述のように、動作が楽になったり、姿勢が少し改善するのは、主にこの作用によるものではないかと考えています。
また、鍼灸により内因性鎮痛物質(脳内麻薬、脳内モルヒネなどとも呼ばれる)が脳や脊髄で発生し、痛みが緩和されます。
★圧迫骨折の患者様の声
@ 脊椎圧迫骨折後の背中、腰の痛み: 83歳 女性 R.S.さん A 脊椎圧迫骨折後の背中、腰の痛み: 82歳 女性 Y.F.さん●整形外科での診察
整形外科による診察を受けることは重要です。とくに、発症初期においては、画像診断により背骨(脊椎)がどのような状態になっているかを確認したり、圧迫骨折を生じた原因を検討することが必要です。
以下、参考程度にまとめました。
・レントゲン検査: 脊椎の安定性の確認、ガンの可能性の除外などに用いられます。
・MRI: 確定診断に用いられます。
・椎体内の血腫の程度により、新鮮、陳旧 の判別が可能
→ 安静度の検討に有用です。
・椎体後方に走行する脊髄神経、神経根の圧迫の有無、程度が把握可能
→ 治療法の検討に有用です。
●整形外科での治療:
・保存療法
・安静(急性期)
・鎮痛薬
・コルセット
・リハビリテーション
・手術療法
・バルーン椎体形成術(BKP)
バルーンを用いてつぶれた椎体を押し広げて正常な形に戻し、その後、バルーン内に骨セメントを注入します。
・BKPのメリット
・手術の侵襲度がかなり低い。
・安静期間が短く、リハ開始までの期間も短縮できます。
※BKPのリスク
・隣接する脊椎や肋骨の骨折リスク低下は困難、リスク増加の場合も。
・骨セメント漏出の危険性あり、心臓や肺の問題を起こす可能性も。
●脊椎圧迫骨折の疫学:
・10 年間の脊椎圧迫骨折の累積発生率:
(山村住民の10 年間の追跡調査結果より)
60 歳代男性:5.1%,女性:14%,
70 歳代男性:10.8%,女性:22.2%
・米国における脊椎圧迫骨折の現状 (※日本でも同様な状況になりつつあります)
・脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症性骨折の中で最も発生率が高い
・年間700,000件の脊椎圧迫骨折が発生 (全人口の0.22%)
・年間260,000人が最初の有痛性脊椎圧迫骨折の診断を受ける。
・最初の脊椎圧迫骨折後、新たな脊椎圧迫骨折が発生するリスクは5倍以上に上昇
※参考:骨粗鬆症について
・一般住民の40 歳以上の骨粗鬆症の有病率:
腰椎(L2〜 L4):男性3.4%,女性19.2%,
(大腿骨頸部:男性12.4%,女性26.5%)
↓
・骨粗鬆症患者数(40 歳以上)推定値:
腰椎で診断した患者数: 約640 万人(男性80 万人,女性560 万人)
(大腿骨頸部で診断した患者数: 約1070 万人(男性260 万人,女性810 万人))
参考文献:
・骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版: 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員
・椎体骨折評価基準2012年度改訂版: 椎体骨折評価委員会
・日本整形外科学会(患者教育用パンフレット)整形外科シリーズ31
骨粗鬆症による脊椎椎体骨折
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